SPIKE株式会社 高山仁志さん
宮城県で起業した先輩起業家を紹介するコーナー「私がここで起業したワケ」。
第13弾は、栗原市で古民家ホテル「風の沢」の運営に携わる高山仁志さんにインタビューしました。
「風の沢」は、一日一組限定で文化財を貸切る宿で、東北の食材を生かした料理を楽しめる特別な宿。
高山さんが栗原市へ移住するきっかけ、事業に対する思いを伺いました。
東日本大震災をきっかけに、東北に貢献したいという思いが芽生える

現在の高山さんの事業内容を教えてください。

宮城県栗原市にある宿泊施設「風の沢」の運営と、そこでお出ししている料理を手がけています。
「風の沢」は、登録有形文化財に登録されている築200年の母屋・馬屋を中心に、ホテル・レストラン・瞑想室・茶室で構成され、1日1組限定で貸切しています。茅葺き屋根の建物やアート作品を展示するダイニングルームがあり、2025年2月にオープンしました。


栗原市へ移住したきっかけを教えてください。


栗原へ来たきっかけは、東日本大震災です。東北出身者にとって、やはり震災は大きい出来事でした。
僕は宮城県仙台市出身で、当時は仕事の関係で東京在住、大きい会社で料理長をやっていました。料理長という責任のあるポジションのため、震災があったとは言え現場を離れられませんでした。ただ「何らかの形で東北に貢献したい」と思い、「東北の食材を積極的に使いましょう!」という取り組みを行いました。そうは言っても、企業は営利から外れることは長期的には取り組めません。しっかり腰を据えて東北を応援するのであれば、起業して自分で事業をやらないと形にはできないなと思い始めました。
その頃から「自分に何ができるか」を考え始めました。
数年間、東京と宮城を往復しながら構想を練り、時間をかけて取り組みたいと思ったのは宮城県の「観光」についてでした。

東北の観光面に注目したのですね。


現状東北六県を併せても、インバウンドの訪問者数が全体の2%を切る状態です。
これを10%にしましょう、というのは絶対無理。
じゃあそれを0.1%でも上げるだけでも経済的にはインパクトがあるので、そこに貢献できるにはどうしたらよいのか、と考えた時に、この風の沢という施設に出会いました。
ある時、僕がリードシェフを務めたイベントが秋田で開催され、そこに風の沢のオーナー(杉浦さん)がお客様でいらっしゃっていました。そのご縁で栗原を訪れたというのが、風の沢との出会いです。
「これだけいい建物があるならお客様を呼べるだろう」と、数年構想を練ってきました。


起業してみて、良かったこと・苦労したことをお伺いできますか。


良かったことは、県自体の観光にも関わらせていただいていることです。
東北の観光を地域全体として底上げしたいと思っていたので、フリーランスや個人ではできないことに関われているのは嬉しいことです。場所を構えて事業を行う、これは自分が理想としていた形のひとつで、そこに共感してもらって、県のような大きな組織からお声がけをいただけるようになったことは、本当にありがたいことですね。
それに伴って、自分の発言の重さが変わった、という点もあります。
宮城県に移住する前は、自分の思いに共感してくれても、言葉の重みが足りなかったんだと思います。リスクを背負って、こういう場所でやっていることで、言葉だけではない部分を伝えられて「ああ、この人は本気なんだな」という姿勢を伝えられるのは、 とてもプラスなことです。

苦労したところで言うと、東北のインバウンドの弱さは、ここ数年でできあがった結果ではないので・・・。京都が京都である理由は、1500〜1600年前から脈々と受け継がれてきた文化と、それを大事にしてきた風土があるからです。
一方で、それを東北で5年や10年で作れるかというと、やはり難しい。
観光のあり方も、そんなに簡単に変えられるものではない、その現実を実感しました。
そこに関連する観光の面も、そんなに簡単に変えられる話じゃない、というのは、やってからは本当に思いますね。言葉で「訪問者数を0.1%増やす」というのは簡単ですが、この0.1%を動かすことも、並大抵の努力じゃないな、課題ってそんなに簡単じゃないんだなっていうのは本当に思います。ただ、逆に言えば、簡単に解決できることは、課題にはなっていない。課題を解決する、となると、そこに対する労力はかなり必要だな、と改めて思いました。

地域の付加価値を高めることで、栗原に貢献したい

今後の展望をお伺いできますか。


地域全体で、付加価値を高くすることですね。
例えば観光地でお蕎麦を食べたら、値段は1600円くらい。
ただ現在の栗原は非観光地なので、1杯500円くらいで食べられます。
僕らは調理してお客様へお出しする最終提供者ですが、店舗で販売するまでに、蕎麦の生産者さん・野菜の生産者さん、配達する方、と何人かの手を渡っています。1杯500円で販売すると、その手前の方々も安く売らないといけないし、全体で安売りをしなければいけなくなる。
過去、日本の国力が強く経済的にも優位だった時代は、さらに安い海外からの仕入れによって、価格を抑えることができていました。
しかし現在では、国内での自給が難しくなり、食材の約70%を輸入に頼っています。
国際的な経済水準とある程度釣り合わなければ、地方の経済はどうしても衰退してしまいます。
栗原市では、農業に携わる人が全体の40%を超えています。
第一次生産者にしっかりお金が届き、その水準が保たれなければ、地域の力は弱ってしまう。『観光』と『食』の力で、地域にお金と人がめぐる仕組みをつくっていきたいと考えています。

小さなことからでも、まずはやってみる

これから起業を考えている人に向けて、メッセージをお願いします。


やっぱりチャレンジしないと味わえない喜びって、結構多いです。
まだまだ日本は失敗に寛容的ではない部分もありますが、それもずいぶん変わってきていると思います。
僕自身、個人でやってきたことが評価されるようになってきて思うのは、「すべてを捨てて起業する必要は全然ない」ということです。何かやりたいことがあるなら、小さなことからトライしてみる。自分が本当に好きなことをやってみるっていうのは人生においてとてもいい体験なので、どんどんチャレンジする人が出てくるといいなと思っています。
僕自身も、震災をきっかけに小さな一歩を踏み出したことで、今があります。
だからこそ、迷っている人にも「まずは小さく始めてみよう」と伝えたいです。
高山さんの取り組みは、「観光」と「食」を通じて地域の力を高める新しい挑戦です。
“まずは小さく始めてみよう”という言葉には、経験から生まれた確かな重みがありました。
その一歩が、地域の未来を動かしていきます。
風の沢 webサイト:https://kazenosawa.site/
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